東京地方裁判所 昭和45年(ワ)12588号 判決 1972年4月07日
主文
1 被告は原告に対し、金二五〇万円およびこれに対する昭和四四年一二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、原告が金五〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
一 申立
(原告)
主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求める。
(被告)
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
二 主張
(請求の原因)
(一) 株式会社日本住宅総合センターは、昭和四五年七月八日東京地方裁判所において破産宣告を受け、同日原告が破産管財人に選任されたものであり、被告は右破産宣告に至るまで、株式会社日本住宅総合センターの取締役であつた者である。
(二) 株式会社日本住宅総合センター(以下、破産会社という)は、被告に対し、昭和四四年八月二日、弁済期を同年一二月二〇日とし、利息の定めなく金二五〇万円を貸付けた。
(三) 前項の貸金債権は、破産宣告と同時に破産財団に属するに至つたので、原告は被告に対し、金二五〇万円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四四年一二月二一日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する答弁および抗弁)
(一) 請求原因第一、二項の事実は認める。
(二) 破産会社は被告に対し、昭和四四年一二月下旬本件貸金二五〇万円の債務を免除する旨の意思表示をした。
(抗弁に対する原告の認否)
(一) 被告の抗弁事実を否認する。
(二) 仮りに、抗弁事実が認められるとしても、当時破産会社の取締役であつた被告に対する債務の免除は商法第二六五条に基づく取締役会の承認を要する行為と言うべく、これを受けていない以上効力がない。
(再抗弁に対する認否)
破産会社が、本件貸金につき債務免除の意思表示をするにあたつて、商法第二六五条に基づく取締役会の承認を得ていないことは認める。
三 証拠関係(省略)
理由
一 請求原因第一、二項の各事実については、当事者間に争いがない。
二 被告は、破産会社が、昭和四四年一二月下旬被告に対し、貸金二五〇万円について債務免除の意思表示をした旨主張する。そして、被告本人は右主張事実に添う供述をしているけれども、この供述は証人大矢忠の証言に対比するとき、たやすく採用し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。なお、仮に破産会社において被告主張のような債務免除の意思表示をしたものとしても、当時破産会社の取締役であつた被告に対する右の如き行為は、商法第二六五条にいう取引に該当するものと解するのが相当であり、従つて、破産会社取締役会の承認を要すると言わねばならないところ、かかる承認を得ていないことは被告の自ら認めるところであるから、所詮、右債務免除行為は効力を生ずるに由ないものと言うべきである。
してみれば、いずれにせよ、被告の抗弁は排斥を免れない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。